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東京高等裁判所 昭和37年(う)1358号 判決 1963年4月09日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は弁護人高橋方雄、同長谷川寧連名提出の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、ここにこれを引用しこれ対し次のように判断する。

控訴趣意第一点について

原審証人広江敏夫の証言によれば、被告人は昭和三十六年三月三十一日刑事の取調を受けるに先立ち、ポリグラフ検査の承諾を取られた上同日その検査を受けたところ右検査終了後検査官から被告人に対し検査の結果被告人の犯行を否定する旨の供述は虚偽であるとの結果が出た旨及びもし虚偽の供述をした覚えがあるなら刑事の取調に対し正直に述べるようにと告げた事実を認め得られるが、それ以外に被告人の取調にあたつた刑事等がポリグラフ検査の結果をたてに被告人の自白を特に強制したような証跡は記録並びに当審における事実取調の結果に徴しても、これを窺い得ないから、被告人の司法警察員に対する自白調書が所論のように信憑性のないものであるとは認められない。また被告人の司法警察員並びに検察官に対する各供述調書中、被害金員の所在及び被害金額に関する供述の一部に他の関連証拠と正確に吻合しない点のあることは所論のとおりであるけれども、同種犯罪が反覆して行われ、しかも犯行から取調を受けるまでの間数ヵ月の隔りがあることを考慮に入れるとこれら犯行の微細な点について、時に誤つて別異の供述をなすことは必ずしも異とするに足りないから、かような点を捉えて被告人に対する右供述調書の信憑性を云為するのは当らない。なお、原判示第二及び第三の各事実に対する所論アリバイの主張も記録上これを首肯すべき証左がない。従つて原判決判示第一乃至第五の各事実は、その挙示する証拠により十分これを認めることができ、当審における事実取調の結果に徴しても右認定を左右することはできない。それゆえ、原判決には所論の如き違法はなく、論旨は理由がない。

控訴趣意第二点について。

記録に現われた本件各犯行の動機、罪質、態様、被告人の性行、境遇その他一切の情状を考慮すると、弁護人指摘の情状を斟酌しても原判決の量刑は相当であつて、重きに過ぎるものということはできない。故に論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却し当審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文によりその全部を被告人に負担させることとし、主文のとおり判決する。

検事 原長栄公判出席

(裁判長裁判官 坂間孝司 裁判官 栗田正 片岡聡)

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